2026年5月、大手電機メーカーが自社およびグループ会社において、品質に関する不適切行為の疑いを公表し、外部専門家による調査委員会を設置したというニュースが報じられました。決められたはずの検査手順やマニュアルが、なぜ現場で守られなくなってしまうのでしょうか。

本記事では、公表されている事実関係を整理したうえで、検査手順 形骸化 品質不正が起きる組織的な要因を分析し、mayclassの視点から「機能する」品質管理体制のつくり方を解説します。なお、本記事は特定の企業の対応の是非を論じるものではなく、どの企業にも起こりうる一般的な教訓として取り上げるものです。

目次(開く場合はクリック)

2026年5月に発覚した品質に関する不適切行為の疑い

品質総点検で明らかになった内容

当該企業は、2026年1月から自社グループの生産拠点・開発拠点を対象に品質総点検を実施しました。従業員へのヒアリング、工程変更・設計変更等に関する記録と顧客報告履歴との照合、全従業員を対象とした通報窓口の開設といった方法で、2020年4月から2026年1月までの生産活動を自主点検した結果、複数の生産拠点で不適切行為の疑いが判明したと公表されています。

公表内容によると、検出された事案の大半(96.7%)は「お客様の確認を受けずに行われた部材・工程・設計等の変更」であり、そのほかに試験・検査データに関する不適切な取扱いや、生産地に関する不適切な表記も確認されたとされています。現時点で製品機能・安全性に直ちに影響する事象は確認されていないとしつつ、同社は外部専門家で構成される調査委員会を設置し、2026年8月末を目途に調査を進めるとしています。

なぜ、これまで気づけなかったのか

注目すべきは、点検対象期間が2020年4月からと、長期間にわたっている点です。決められた工程変更の承認手続きや検査手順が存在していたとしても、それが長期間にわたり現場で守られない状態が続き、かつ社内で発見されにくかったという構図は、多くの企業にとって決して他人事ではありません。

品質不正はなぜ、どの企業にも起こりうるのか

品質不正の主な類型

品質に関する不適切行為には、検査を実施せずデータを流用・捏造する「検査不正」、取引先との合意や規格に反する材料・工程を用いる「製法不正」、当局への届出や公的規格を守らない「届出・表示不正」など、いくつかの類型があります。手口はさまざまですが、共通しているのは「本来あるべき手続きを経ずに、問題のない外形だけを取り繕ってしまう」という点です。

「品質不正ドミノ」と呼ばれる構造

損害保険ジャパングループのリスクコンサルティング会社が公表した分析(SOMPOリスクマネジメント「どの企業にもリスク内在?品質不正の最新事情」)では、2015年以降、国内の有名メーカーで品質不正問題が連鎖的に発覚してきた状況が「品質不正ドミノ」と表現されています。同分析は、ひとたび不正が発覚した企業への信頼失墜は大きく、株価下落や取引停止、経営陣の交代にまで発展しうると指摘しています。裏を返せば、品質不正は特別な企業だけの問題ではなく、納期・生産量のプレッシャーにさらされるあらゆる現場に潜在するリスクだといえます。

品質不正が企業に与える経営インパクト

信頼失墜が招く長期的なダメージ

前述のSOMPOリスクマネジメントの分析では、品質不正の発覚は取引先からの信頼失墜による売上低迷、株価下落、トップマネジメントの引責辞任など、企業に長期的なダメージを与えると指摘されています。不正に関与した現場の管理職や担当者が責任を問われるケースもあり、採用活動にも影を落とすなど、影響は品質保証部門だけにとどまりません。一度失った信頼を取り戻すには、発覚から解決までの何倍もの時間がかかることを踏まえると、平時からの備えがいかに重要かが分かります。

「独立した品質保証部門」があっても安心はできない

同分析によれば、品質不正を起こした企業の多くには、形式上は独立した品質保証部門が存在していました。しかし、そのリーダーが品質保証畑の出身ではなく製造・営業部門との兼務であったり、メンバーの多くが若手で他部門のベテランに意見しにくい構成であったりすると、組織図の上では独立していても実質的なチェック機能が働きにくくなります。組織体制を整備すること以上に、権威と権限を持ったキーパーソンを配置できているかが問われます。

現場と経営層の「品質意識のズレ」をどう把握するか

トップマネジメントが品質意識向上を発信していても、現場では「余計な作業が増えただけ」と受け止められているケースも少なくありません。同分析では、経営層・管理職の意識と、製造・検査・品質保証部門の意識に乖離がないかを、アンケートやヒアリングを通じて定期的に可視化する取り組みが紹介されています。数値化・言語化されていない現場の不満は、些細な手順省略を正当化する温床になりかねません。

決められた手順・マニュアルが守られなくなる組織的な要因

現場でよくある3つの構造的要因

SOMPOリスクマネジメントの分析によれば、品質不正の背景には「納期・生産量のプレッシャー」「品質保証部門の実質的な権限の弱さ」「現場と経営層のコミュニケーション不足」といった組織的な要因が繰り返し指摘されています。品質不正は個人の倫理観だけの問題ではなく、組織の構造そのものに原因があるケースが多いのです。

承認プロセスが形式的になり、実質的なチェックが働かない

変更申請や検査記録の承認欄に印鑑やチェックはあっても、実際には内容を精査せず形式的に通過させてしまう「形骸化した承認」は、多くの組織で起こりえます。承認者が多忙であったり、担当者の判断を疑わない文化があったりすると、チェック機能は名目上のものになってしまいます。

現場の裁量に判断が委ねられ、基準が属人化する

「軽微な変更だから確認は不要だろう」といった判断が、明文化された基準ではなく個々の担当者の裁量に委ねられていると、時間の経過とともに現場ごとに異なる運用が定着してしまいます。前述の分析でも、納期プレッシャーの中で「安全性に影響しないなら多少手順を省略しても大丈夫だろう」という現場心理が、不適切な手順変更を正当化してしまう構図が指摘されています。

変更・逸脱を報告しにくい組織文化

手順からの逸脱に気づいた担当者がいても、それを報告することで自分や周囲、さらには長年不正に関与してきた先輩社員にまで迷惑がかかると感じれば、声を上げることは難しくなります。長年の慣行として引き継がれてきた運用ほど、「今さら指摘できない」という空気が生まれやすい傾向があります。

マニュアルが「ある」ことと「機能している」ことは別物

社内にマニュアルを整備しただけで、業務の品質が安定するわけではありません。

重要なのは、マニュアルが現場で読まれ、内容が正しく理解され、実際の業務で使われているかどうかです。

検査手順や業務ルールを詳しくまとめていても、現場の実態に合っていなかったり、必要な情報をすぐに見つけられなかったりすれば、次第に使われなくなります。その結果、担当者ごとの判断や経験に頼った業務へ戻り、手順の省略や判断のばらつきが生じやすくなります。

mayclassでは、マニュアルを作ること自体を目的とは考えていません。マニュアルは、業務の品質を安定させ、誰もが一定の基準で判断・行動するための「手段」です。

「マニュアルがある会社」と「マニュアルが機能している会社」では、業務品質や生産性、教育の再現性に大きな差が生まれます。

読まれない・守られないマニュアルの共通点(mayclass視点)

mayclassでは、マニュアルは「手段」であり目的ではないと考えています。「マニュアルがある会社」と「マニュアルが機能している会社」は別物であり、この差が組織の品質・生産性を大きく左右します。検査手順やマニュアルが分厚く整備されていても、それが読まれず、理解されず、現場の実態と乖離していれば、形だけのマニュアルにすぎません。読み手を意識した設計になっていないことこそが、マニュアルが守られなくなる根本的な原因だとmayclassは考えています。

検査・変更管理プロセスにおける暗黙知の可視化

検査や変更管理の現場では、「この程度の変更なら大丈夫」「この工程は毎回このように調整している」といった、文書化されていない判断基準が積み重なっていることが少なくありません。こうした暗黙知を放置したまま「手順を守れ」と指示するだけでは、実効性のある改善にはつながりません。第三者による丁寧なヒアリングを通じて、現場に眠る暗黙知や判断基準を可視化し、あるべき手順として明文化していくプロセスこそが、mayclassが重視するアプローチです。

現場で機能する検査・変更管理の仕組みをつくるには

判断基準を明文化し、例外対応まで落とし込む

「軽微な変更」と「要承認の変更」の境界線を曖昧にしたままにせず、具体的な基準として明文化することが第一歩です。「この材料・工程変更は事前承認が必要」「この範囲内の調整は記録のみで可」といった線引きを、誰が読んでも同じ判断ができる水準まで具体化することが重要です。あわせて、「納期が逼迫している場合はどう対応するか」といった例外時の判断ルートもあらかじめ定めておくことで、現場が自己判断で手順を省略する事態を防ぎやすくなります。

承認・記録・報告の仕組みをセットで設計する

基準を明文化するだけでなく、承認者が実質的に内容を確認できる体制、変更の記録が残る仕組み、そして逸脱に気づいた人が声を上げやすい報告経路をセットで設計する必要があります。品質保証部門に実質的な権限を持たせ、製造・営業部門からの独立性を確保することも欠かせません。通報窓口を設けるだけでなく、報告した人が不利益を受けない仕組みを明確にすることも、報告しやすい文化づくりには重要です。

定期的な運用状況の確認と更新

マニュアルや手順書は、一度作って終わりにするのではなく、現場の実態と乖離していないかを定期的に確認し、必要に応じて更新し続ける必要があります。あわせて、経営層と現場との日頃のコミュニケーションを通じて、なぜその手順が必要なのかという意義を伝え続けることが、形骸化を防ぐ土台になります。トップマネジメントが現場に足を運び、手順の必要性を自らの言葉で語り、現場の声にも耳を傾けるという地道な積み重ねが、結果的に不正リスクを下げることにつながります。

自社に品質不正のリスクが潜んでいないか、確認したいチェックポイント

自社の検査・変更管理プロセスを見直す際は、以下の観点を確認してみることをおすすめします。

  • 変更申請や検査記録の承認は、内容を実質的に確認したうえで行われているか
  • 「軽微な変更」と「要承認の変更」の境界線が明文化されているか
  • 品質保証部門は、製造・営業部門から独立した実質的な権限を持っているか
  • 手順からの逸脱に気づいた従業員が、不利益を恐れずに報告できる経路があるか
  • 経営層と現場の品質意識にズレがないか、定期的に確認する仕組みがあるか
  • マニュアルや手順書が、現場の実態に合わせて定期的に更新されているか

これらの項目に一つでも不安があれば、それは検査手順 形骸化 品質不正のリスクが潜んでいるサインかもしれません。特別な不正の兆候がなくても、平時からこうした観点で仕組みを点検しておくことが、将来のリスクを未然に防ぐことにつながります。

まとめ|品質は「手順」ではなく「仕組みの定着」で守られる

検査手順 形骸化 品質不正という問題は、特定の企業や業界だけの話ではありません。納期や生産量のプレッシャー、属人化した判断基準、報告しにくい組織文化は、多くの企業に共通して潜在するリスクです。決められた手順やマニュアルを「作ること」がゴールではなく、それが現場で理解され、機能し続ける仕組みとして定着しているかどうかを、あらためて点検してみることが重要です。

株式会社mayclassは、業務の可視化と暗黙知の抽出を通じて、現場で本当に機能するマニュアル・業務手順の設計を支援してきました。自社の検査・変更管理プロセスや業務マニュアルの実効性を見直したいとお考えの方は、ぜひ一度ご相談ください。

支援実績の詳細はmayclassの支援事例集をご覧ください。また、サービス内容や費用感についてはお問い合わせページよりお気軽にご連絡ください。

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