マニュアル作成を外注する。
この言葉に、どこか違和感を持つ企業は少なくありません。

前編では、「外注」という選択そのものが広がっている背景について整理しました。
限られたリソースの中で、何に時間を使うのかを見極める。
その意思決定として、外注は合理的に広がっているという構造です。

しかし一方で、マニュアル作成に関しては、同じ「外注」という言葉で語ると、どこかしっくりこない感覚が残ります。

「自社のことは自社でやるべきではないか」
「本当に外注する価値があるのか分からない」

こうした違和感は、とても自然なものです。

ただ、その正体の多くは、マニュアルというものの捉え方にあります。

マニュアルを「手順を書いた資料」と捉えていると、それは自社で作るべきものに見えるかもしれません。

しかし実際には、マニュアルは業務の流れや判断基準を整理し、組織として誰でも再現できる状態をつくるためのものです。

つまり、単なる資料作成ではなく、組織の判断や動き方を整えるプロセスでもあります。

この前提に立つと、マニュアル作成を外部に任せることは、単なる外注ではなく、構造そのものを整えるための意思決定として捉え直すことができます。

後編では、マニュアル代行に対する誤解を解きながら、それがなぜ合理的な選択なのかを、具体的に紐解いていきます。

ーーマニュアル代行に対する企業の誤解は何でしょうか?

矢澤:
一番大きいのは、「マニュアルの完成イメージがないこと」です。

マニュアルには、実は明確な定義がありません。

チェックリストを思い浮かべる人もいれば、操作手順書や業務フローを想像する人もいる。

つまり、人によって「マニュアル」が指しているものが違うんです。

その結果、

・最低限の手順が書いてあればいいと思っている
・フォーマットがあればマニュアルだと思っている
・とりあえず作れば良いと考えている

といった認識のズレが生まれます。

ただ本来のマニュアルは、そういった部分的な情報をまとめたものではなく、

・業務の流れ
・判断基準
・例外対応
・目的や背景

といったものを含めて、組織として再現できる状態をつくるものです。

この全体像がイメージできていないと、外注したときに「何が価値なのか」が見えにくくなります。

結果として、「それなら自分たちでも作れるのでは?」という認識になってしまいます。

ここが一つの大きな誤解だと思っています。

ーーどのような企業がマニュアル代行を活用していますか?

矢澤:
意外かもしれませんが、「すでにある程度整っている企業」が多いです。

完全に崩壊している状態ではなく、

・ある程度の仕組みはある
・でも回りきっていない
・時間や人手が足りない

という状態です。

つまり、「問題があることに気づいている企業」です。

ここがポイントで、そもそも課題に気づいていない企業は、マニュアルを外注するという発想自体が出てきません。

一方で、ある程度整っている企業は、

・業務が属人化している
・教育に時間がかかっている
・改善が止まっている

といった違和感を持っています。

そしてもう一つ特徴的なのは、「このままでは限界が来る」と感じていることです。

現状は回っている。でも、このまま拡大したら回らなくなる。そのタイミングで初めて、「構造を整える必要がある」と判断します。

だからこそ、マニュアル代行は問題解決の最後の手段ではなく、成長フェーズで選ばれる施策として導入されることが多いです。

ーーマニュアル作成を外注する価値はどこにありますか?

矢澤:

大きく2つあります。
1つは「時間の創出」、もう1つは「構造の整理」です。

時間の創出は分かりやすいですが、本質的に重要なのは後者だと考えています。

mayclassでは、マニュアル作成において最も重要なのは、業務のヒアリングだと捉えています。

単に情報を聞き取るのではなく、その業務の中にある「判断基準」を惹き出すことを目的にしています。

私たちは単に文章を書くのではなく、ヒアリングを通じて、

・業務の流れ
・判断基準
・背景にある意図

を可視化していきます。

このヒアリングでは、「何をやるか」だけでなく、「なぜそうしているのか」まで言語化することを前提としています。

多くの業務は、手順だけで成り立っているわけではありません。優先順位のつけ方や、例外対応、現場での判断といった要素が組み合わさって、初めて成立しています。

そのため、手順だけを整理しても、再現性は担保されません。

一方で、背景や判断基準まで整理されていると、現場で応用が効くようになります。

そして、この「応用できる状態」こそが、組織としての再現性を高めることにつながります。その結果として、業務のつながりや意思決定の基準が明確になり、組織としての“構造”が見えてきます。

私たちは、このヒアリングを通じて、個人の中にあった判断を、組織の基準へと引き上げることを目指しています。

だからこそこれは、単なる作業委託ではなく、意思決定の土台を整える取り組みだと考えています。

ーーAI活用との関係はどう考えていますか?

矢澤:

AIである程度の整理はできます。

例えば、

・情報をまとめる
・構造化する
・見やすく整える

といった工程は非常に得意です。

ただし、暗黙知の抽出は難しい。

なぜそのやり方なのか。
なぜその判断をするのか。
なぜその順番なのか。

こういった部分は、そもそも最初から言語化されていないことが多い。

だから、AIにインプットする情報として存在しないんです。

この部分は、ヒアリングを通じて問いかけながら惹き出していく必要があります。

さらに言うと、単に質問するだけでは不十分で、

・違和感に気づく
・深掘りする
・文脈を読み取る

といったコミュニケーションが必要になります。

ここは、現時点では人が担う領域です。

だからこそ、AIが整え、人が惹き出すという役割分担が重要になります。

この順序というよりも、AIによって表面上の情報だけをまとめても、人が惹き出す情報を組み込めないと、浅いマニュアルになってしまいます。

ーー費用対効果についてはどう考えればいいですか?

矢澤:

短期で見ると高く感じるかもしれませんね。

ただ、それは「一度の制作費」として見ているからです。

マニュアルは一度作れば終わりではなく、組織のベースとして使い続けるものです。

例えば、

・教育時間が短縮される
・引き継ぎがスムーズになる
・ミスや手戻りが減る
・改善のスピードが上がる

こういった効果は、日々積み重なっていきます。

つまり、単発のコストではなく、運用の中で回収されていく投資です。

しっかりと運用に乗せ、情報が最新であることが前提にはなりますが、10年、20年使われると考えれば、かなりコストパフォーマンスは高い。

さらに言うと、社員がマニュアル作成に時間を使う場合、その時間分、本来の業務の生産性は下がります。

その機会損失まで含めて考えると、外部に任せた方が合理的なケースは多いです。

場合によっては、人を1人雇うよりも効果が出ることもあります。

ーー任せることで本業に集中できるという実感はありますか?

矢澤:
あります。

ただ、「時間が空く」という意味だけではありません。それ以上に大きいのは、思考の質が変わることです。

特に印象的なのは、ヒアリングを受けた方の変化です。

自分の業務を言語化していく中で、

・なぜこのやり方なのか
・どこに無駄があるのか
・どう改善できるのか

といった視点が自然と生まれてきます。

普段は当たり前にやっている業務も、問い直されることで初めて構造として見えてくる。

その結果、

・判断が早くなる
・迷いが減る
・改善の打ち手が明確になる

といった変化が起きます。

つまり、マニュアル作成は単なるアウトプットではなく、自分たちの仕事を再定義するプロセスでもあるんです。

そのプロセスを外部と一緒に行うことで、本業そのものの質が上がる、という実感はかなりあります。

ーーマニュアル代行が一般化するために必要なことは?

矢澤:

一番は、「現状を把握すること」です。

多くの企業は、

・業務を洗い出す
・マニュアルにする

ここで止まっています。

ただ、本来の目的はそこではありません。

マニュアルは、改善するための土台です。

その先に、

・どこを変えるべきか
・どこに無駄があるのか
・どうすればより良くなるのか

といった議論が生まれて初めて、価値が出てきます。

ただし、その議論をするためには、まず現状が整理されている必要がある。

ここが抜けていると、そもそも改善のスタートラインに立てません。

だからこそ、「とりあえず作る」ではなく、 現状を構造として捉えることが重要になります。

これができて初めて、マニュアル代行の価値も理解されやすくなると思います。

ーー最後に、マニュアルを後回しにしている企業へ一言お願いします

矢澤:
すでに後回しにしていると気づいているのであれば、もう答えは出ていると思います。

マニュアルは、「余裕ができたらやるもの」ではありません。

むしろ、余裕を生み出すために整えるものです。

だからこそ、後回しにすればするほど、余裕は生まれにくくなる。

スタートアップでも、大企業でも関係ありません。

重要なのは、「完璧に作ること」ではなく、まず現状を把握することから始めることです。

そこから初めて、組織としての改善が動き出します。

編集後記(後編)

マニュアル作成は、社員の努力や善意に任せる仕事ではありません。

本来は、組織の生産性を最大化し、誰が担当しても一定の品質で業務が回る状態をつくるための仕組みです。

しかし現実には、現場の余力や個人のスキルに依存した形で進められているケースが少なくありません。

その状態では、属人化が進み、判断が個人の中に閉じたままになってしまう。
結果として、再現性が担保されず、組織としての成長も鈍化していきます。

だからこそ、マニュアル作成は「誰かが頑張って作るもの」ではなく、組織として設計すべきものです。

家事代行がそうであったように、“任せること”は決して甘えではありません。

限られた時間とリソースの中で、どこに集中すべきかを見極める、ひとつの意思決定です。

自分たちでできるかどうかではなく、自分たちでやるべきかどうかを問い直す。

この視点が広がったとき、マニュアル作成に対する捉え方も変わっていきます。

マニュアル代行も同様に、これからは「特別な選択」ではなく、組織を前に進めるための、当たり前の選択肢の一つになっていくと考えています。

Manual Creation Services Are Not “Just Outsourcing” — A Decision to Entrust the Structure

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