2026年4月1日から、高年齢の従業員が安全に働ける環境を整えることが、企業の「努力義務」になりました。

努力義務には、違反した場合の罰則はありません。しかし、何も対応しなくてよいという意味ではありません。企業には、従業員が安全に働けるよう配慮する責任があります。

万が一、労働災害が起きたときには、

  • どのような危険を想定していたか
  • 事故を防ぐために何を行っていたか
  • 安全な作業方法を従業員へ伝えていたか

などが確認される可能性があります。

そのため、作業環境を整えるだけでなく、安全対策の内容を記録し、作業手順書へ反映しておくことが大切です。

この記事では、2026年4月から企業に求められる高年齢者の労災対策と、作業手順書を見直すときのポイントを分かりやすく解説します。

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2026年4月から高年齢者の労災防止対策が努力義務に

まずは、2026年4月から何が変わったのかを確認しましょう。

高年齢者の労災防止対策で企業に求められるようになったこと

2026年4月1日に施行された改正労働安全衛生法により、企業は高年齢者の身体的な特徴に配慮し、労働災害を防ぐための対策に取り組むことが努力義務となりました。

例えば、次のような対策が求められます。

  • 床の段差や滑りやすい場所を改善する
  • 十分な明るさを確保する
  • 身体への負担が大きい作業を見直す
  • 無理のない作業時間や休憩時間を設定する
  • 安全な作業方法を分かりやすく伝える

企業が具体的に取り組む内容は、厚生労働省の「高年齢者の労働災害防止のための指針」に示されています。この指針は2026年2月10日に公示され、同年4月1日から適用されています。

これまでのガイドラインと何が違うのか

高年齢者が安全に働ける職場づくりについては、以前から厚生労働省の「エイジフレンドリーガイドライン」が示されていました。

エイジフレンドリーとは、加齢による体力や視力、バランス感覚などの変化に配慮し、年齢を重ねても安心して働ける環境を整える考え方です。

これまでのガイドラインは、企業が自主的に取り組むためのものでした。しかし、2026年4月に改正労働安全衛生法が施行され、高年齢者の特性に配慮した労災防止対策が、企業の「努力義務」になりました。

つまり、単に「取り組むことが望ましい」という位置づけから、法律に基づき「必要な対策に取り組むよう努めなければならない」という位置づけへ変わったのです。企業には、新たな指針を踏まえて、作業環境や作業方法、作業手順書などを見直すことが求められます。

「努力義務なら対応しなくてもよい」は誤解

努力義務には、対応しなかったことだけを理由とする直接的な罰則はありません。

ただし、企業には従業員の生命や身体の安全に配慮する義務があります。労働災害が発生した場合には、事故を防ぐために必要な対策を行っていたかが問われる可能性があります。

そのため、企業には次のような対応が必要です。

  • 職場にどのような危険があるかを確認する
  • 高年齢者に負担がかかる作業を見直す
  • 安全な作業方法を決める
  • 決めた内容を従業員へ周知する
  • 実施した対策や教育の記録を残す

重要なのは、対策を考えるだけで終わらせず、現場で実行できる形にすることです。

作業手順書に、安全な作業方法や注意点、判断基準を具体的に記載しておけば、従業員への周知や教育にも活用できます。また、企業がどのような安全対策を行っていたのかを説明する資料の一つにもなります。

参考:高年齢者の労働災害防止のための指針

数字で見る高年齢労働者の労働災害

制度の背景には、就業構造の変化と労災の実態があります。最新の統計を確認します。

就業者の7人に1人が65歳以上という現実

総務省統計局の統計トピックス(2025年9月14日公表)によれば、2024年の65歳以上の就業者数は930万人で、21年連続の増加となり過去最多を更新しました。就業者総数に占める割合は13.7%で、こちらも過去最高です。就業者のおよそ7人に1人が65歳以上という計算になります。

年齢階級別の就業率を見ると、65〜69歳が53.6%、70〜74歳が35.1%、75歳以上が12.0%と、いずれも過去最高でした。65歳を過ぎても働き続けることは、もはや例外ではありません。人手不足を背景に、この傾向は今後さらに強まると見込まれます。

【図表挿入:65歳以上の就業者数と就業者総数に占める割合の推移】

令和7年の死傷者数は13万5,333人、事故の型別では転倒が最多

厚生労働省が2026年5月27日に公表した令和7年の労働災害発生状況によれば、休業4日以上の死傷者数は135,333人(前年比385人・0.3%減)でほぼ横ばいでした。

事故の型別に見ると、最も多いのが「転倒」で37,195人(前年比817人・2.2%増)。全体の27.5%を占め、前年から増加しています。次いで腰痛等の「動作の反動・無理な動作」が22,166人、「墜落・転落」が20,864人と続きます。

転倒と、無理な動作による腰痛。この2つで死傷者全体の約44%を占めているという事実は、高年齢労働者の労災防止を考えるうえで見過ごせません。加齢に伴うバランス感覚や筋力の変化が、そのまま災害リスクにつながる類型だからです。

死亡者数は過去最少でも、死傷者数は減っていない

同じ統計で、労働災害による死亡者数は700人(前年比46人・6.2%減)と過去最少を記録しました。重大災害の防止という点では、日本の労働安全衛生対策は着実に成果を上げています。

しかし休業4日以上の死傷者数は横ばいのままです。命に関わる事故は減っているのに、休業を要する災害は減らない。この構図は、対策の焦点が「重大事故の防止」に置かれ、日常的に起きる転倒や腰痛への手当てが手薄になっていることを示唆しています。

なぜ転倒災害は減らないのか

転倒対策として最も多く行われているのは、朝礼での注意喚起や「足元に気をつけましょう」という掲示です。しかし、こうした呼びかけだけでは行動は変わりません。

理由は単純で、「気をつける」という言葉には具体的な行動が含まれていないからです。どの通路のどこに段差があるのか、どの作業のときに視界が塞がるのか、荷物を持つときはどちらの手で手すりを掴むのか。こうした具体が言語化され、作業手順の一部として書かれていなければ、注意喚起は精神論で終わります。

指針が事業者に求めている措置

高年齢者の労働災害防止のための指針は、事業者が講ずるよう努めるべき措置を体系的に示しています。自社に当てはめやすい形で整理します。

経営トップによる方針表明と体制整備

まず求められるのが、経営トップ自らが高年齢労働者の安全と健康の確保を経営課題として位置づけ、方針を表明することです。あわせて、安全衛生委員会などを活用した推進体制を整えることが示されています。

現場任せにしないという意思表示は、形式的な手続きに見えて実は重要です。高年齢労働者への配慮は、生産性や納期と衝突する場面が必ず出てきます。そのとき現場の判断だけに委ねれば、優先されるのは生産性の側です。

作業環境の改善(ハード面)

視力や明暗への適応能力の変化を踏まえた照度の確保、段差の解消、通路の幅と表示の見直し、階段への手すり設置、床面の滑り防止。こうした物理的な環境整備が求められます。

高所作業や重量物の取り扱いについては、そもそも高年齢労働者が担わない配置設計や、機械による代替の検討も含まれます。

作業管理の見直し(ソフト面)

ハード面の整備と並んで重視されているのが、作業の進め方そのものの見直しです。勤務形態や勤務時間の工夫、ゆとりのある作業スピードの設定、注意力や集中力を必要とする作業への配慮、休憩の取り方の見直しなどが挙げられます。

この領域こそ、作業手順書に落とし込むべき部分です。設備投資と違って費用はかかりませんが、手順として明文化されていなければ、実施されたかどうかを確認することもできません。

健康・体力状況の把握と記録

健康診断の確実な実施に加えて、体力チェックによる客観的な把握、本人との面談を通じた自覚症状の確認などが示されています。

ここで重要なのは、把握した結果をどう記録し、どう作業配置に反映したかを残すことです。把握しただけで何も変わらなければ、措置を講じたことにはなりません。

労災防止対策が「やったつもり」で終わる3つの落とし穴

指針の内容を確認したうえで、実務でつまずきやすい点を整理します。多くの企業が陥るのは、次の3つです。

労災防止対策落とし穴①:作業手順書が現役世代を前提にしたまま

既存の作業手順書の多くは、標準的な体力を持つ働き盛りの労働者を前提に書かれています。「重量物は2人で運搬する」といった記述はあっても、その2人が65歳以上である場合を想定した記述はまずありません。

高年齢労働者の労災防止対策として新しい取り組みを追加する前に、いま使っている手順書がどんな人物像を前提にしているかを点検する必要があります。前提が古いまま新しい施策を積み上げても、現場の実態とはずれ続けます。

労災防止対策落とし穴②:「気遣い」に依存している

多くの職場では、実は既に配慮が行われています。「あの人には重い荷物を持たせない」「暗くなる前に外の作業を終わらせる」といった気遣いが、現場のリーダーによって自然に実行されているのです。

問題は、それが特定の誰かの頭の中にしか存在しない暗黙知であることです。リーダーが異動すれば消えます。新しく着任した管理者は、なぜその配慮が必要なのかを知りません。そして、配慮が消えたタイミングで事故は起きます。

現場に既にある良い判断を言語化し、手順として残すこと。これは新しいルールを作る作業ではなく、既にある知恵を組織の資産に変える作業です。

労災防止対策落とし穴③:記録として残っていない

照度を上げた、手すりを設置した、作業スピードを見直した。実施したこと自体は事実でも、いつ、どの箇所を、どういう判断で変更したのかが記録されていないケースは珍しくありません。

指針への対応を第三者に説明する場面では、口頭の説明では足りません。指針のどの項目に対して、自社ではどのような措置を講じたのか。文書で示せる状態にしておくことが、結果的に自社を守ります。

mayclassが考える労災防止対策の作業手順書

ここからは、mayclassがマニュアル制作の現場で大切にしている考え方をお伝えします。マニュアルがある会社と、マニュアルが機能している会社は別物です。この差が、安全管理の実効性を大きく左右します。

判断軸まで書かれているか

理想的な作業手順書には、詳細な形式知と、判断軸・マインドセットの両方が落とし込まれています。

「重量物は台車を使用する」という手順だけでは不十分です。台車が使えない狭い場所ではどうするのか、その判断は誰がするのか、応援を呼ぶ基準はどこにあるのか。判断軸が書かれていて初めて、現場の担当者は目的ベースで自律的に動けるようになります。

高年齢労働者の安全確保は、状況によって最適解が変わる領域です。だからこそ、手順だけでなく判断軸を書く必要があります。

読まれる設計になっているか

マニュアルが読まれない原因は、読む人の意識の問題ではありません。読み手を意識した設計になっていないことにあります。

分厚い安全衛生マニュアルの第8章に高年齢労働者への配慮事項が書かれていても、現場では読まれません。日々使う作業手順書のなかに、該当する工程の記述として組み込まれていて初めて機能します。読みやすく、読んでいて抵抗が出ない設計にすることで、現場は変わります。

すべてを均一化しない――一部の属人化は残す

mayclassは、属人化をすべて排除することを目的にはしていません。基本的な業務フローやルールの標準化は必要ですが、すべての詳細業務まで均一化すると、働く人のモチベーションは下がります。

高年齢労働者の安全対策でも同じです。守るべき基準は明確に標準化する。そのうえで、体調に応じた作業ペースの調整や、後輩への声のかけ方といった部分は本人の裁量に委ねる。「この職場には自分が必要だ」という介在価値を残すことは、定着率の向上にもつながります。

安全のための型は徹底し、その先の工夫は個人に委ねる。この線引きこそ、機能する手順書の設計思想です。

今日から始める作業手順書の見直し手順

最後に、実務として何から着手すればよいかを4段階で示します。

手順1:高年齢労働者が従事する作業を洗い出す

まず、60歳以上の従業員が実際に担当している作業をすべて書き出します。役職や部署ではなく、作業単位で洗い出すことが重要です。

この時点で、想定していなかった作業を高年齢の従業員が担当していることに気づくケースがよくあります。

手順2:身体機能への負荷が高い工程を特定する

洗い出した作業を、転倒・墜落・無理な動作という3つの観点で評価します。令和7年の統計で死傷者数の上位を占めた類型です。

段差や滑りやすい床を通るか、脚立や高所での作業があるか、中腰や重量物の取り扱いがあるか。この3点で絞り込むだけで、優先すべき工程が見えてきます。

手順3:ヒヤリハットを言語化して手順へ反映する

現場の従業員に、これまで危ないと感じた場面を聞き取ります。事故に至らなかった経験こそ、対策の材料として価値があります。

聞き取った内容は、「注意する」ではなく具体的な行動として手順書に書き込みます。「荷物を持って階段を降りる際は、片手で手すりを掴める量に分ける」といった記述であれば、実行されたかどうかを確認できます。

手順4:見直しと記録のサイクルを決める

年1回など、手順書の見直し時期をあらかじめ決めます。あわせて、実施した措置と見直しの経緯を記録として残すルールを定めます。

見直しの記録は、指針への対応状況を説明する資料そのものになります。

手順書の整備を自社だけで進めるのが難しい場合

ここまでの手順を読んで、必要性は理解できるが自社のリソースでは難しい、と感じた方もいらっしゃるかもしれません。

作業の洗い出しから、現場の暗黙知の聞き取り、判断軸まで書き込んだ手順書の作成まで、この一連の作業は知識と経験を要する知的作業です。安全衛生担当者が通常業務の合間に片手間で進めるには重すぎます。

mayclassは、25業界・200社の業務可視化とマニュアル整備を支援し、300件のマニュアルを制作してきました。制作プロセスでは、キックオフから業務分解、プロのインタビュアーによる暗黙知抽出、マニュアル作成、定着支援までを一貫して行います。現場のベテランが無意識に行っている配慮を引き出し、誰が読んでも実行できる手順に変換することを得意としています。

具体的な支援内容と成果は導入事例集に、会社の体制や実績は会社概要資料にまとめています。いずれも下記のページから無料でダウンロードいただけます。2026年4月の努力義務化への対応をどこから始めるべきか、現状の整理からご相談いただくことも可能です。

高年齢労働者の労災防止対策は、手順書の見直しから始まる

2026年4月1日から、高年齢労働者の労災防止措置は事業者の努力義務となりました。罰則はありませんが、労災発生時に安全配慮義務を尽くしたかを判断する具体的な基準として、国が示した指針が参照されます。

就業者の7人に1人が65歳以上という現在、この対応は一部の企業の課題ではありません。休業4日以上の死傷者数が横ばいで推移し、事故の型別では転倒が最多かつ増加しているという統計は、従来の重大事故対策だけでは足りないことを示しています。

高年齢労働者の労災防止対策として最も効果的な第一歩は、設備投資でも新しい研修でもなく、いま使っている作業手順書を見直すことです。現役世代を前提にした記述を洗い直し、現場のベテランが実践している配慮を言語化し、判断軸まで書き込む。そして、実施した内容を記録に残す。この積み重ねが、従業員の安全と会社の説明責任の両方を支えます。

参考:「令和7年の労働災害発生状況を公表

参考:「統計トピックスNo.146 統計からみた我が国の高齢者

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