マニュアル構成に役立つテンプレートと記載例
ここまでで、わかりやすいマニュアルに必要な構成要素や考え方を整理してきました。しかし、実際にマニュアルを作ろうとすると、多くの方が次のような悩みに直面します。
- どんな順番で情報を並べればよいかわからない
- マニュアルの形式が定まらず、着手できない
- 内容がバラついてしまい、読み手が迷う
ここからは、目的や業務の性質に応じて活用できる4つのマニュアル構成テンプレートと、それぞれの使い方のポイントを紹介します。
① スタートガイド形式:業務全体を網羅した構成

▶ 初心者・新入社員向けに特に有効
【主な特徴】
- 1ページまたは数ページで業務全体の概要と開始手順をまとめる
- 最低限「これさえ見れば始められる」状態をつくる
- マニュアル本体へリンクする前段としても有効
【適している業務例】
- 入社初日に使用する業務環境の初期設定
- 店舗オープン作業の手順
- システム導入初期のログイン案内や設定
② FAQ型マニュアル:よくある疑問とその回答を中心に構成

▶ 実務中に「困ったとき」に参照されやすい形式
【主な特徴】
- Q&A形式で構成されており、検索性が高い
- 複雑な業務や例外対応が多い業務に有効
- マニュアルの一部として付録的に加えるのもおすすめ
【適している業務例】
- システム操作(勤怠、経費精算、SaaS等)
- お問い合わせ対応(社内ヘルプデスクや営業)
- 例外処理やトラブル対応が頻発する業務
③ 操作別セクション型:機能や画面単位に分けて説明

▶ システム操作・管理業務に最もよく使われる形式
【主な特徴】
- 操作対象ごとにセクションを分けて構成
- 画面単位で説明できるため、UIと合わせて理解しやすい
- 手順の重複や説明の偏りを避けやすい
【適している業務例】
- 各種社内システム操作マニュアル
- 経理・勤怠・受発注などの定型業務
- 顧客管理(CRM)や営業支援ツールの操作説明
④ ケーススタディ型:具体的な事例をベースに構成

▶ 応用力が求められる業務・判断を伴う業務に最適な形式
【主な特徴】
- 現場で実際に起きうるシナリオをもとにマニュアルを構成
- 業務の背景・判断プロセス・対応の流れをストーリー形式で解説
- 読者が自分ごととしてイメージしやすく、理解定着につながる
- ケース別に手順・判断の分岐点・参考資料を示せるため、応用力が身につきやすい
【適している業務例】
- クレーム対応、トラブルシューティングなどのカスタマーサポート業務
- イレギュラー対応を含む人事・総務・法務関連の業務マニュアル
- 営業現場でのケース別対応(例:要望が複雑な顧客への提案方法)
医療・介護・教育現場など、状況判断と対応が求められる職種全般
どの構成を選んでも大切なのは「読み手視点の再現性」
どのテンプレートにも共通する成功のポイントは、「読み手が業務を正しく再現できるか」を基準に構成を組み立てることです。
例えば、以下のように構成テンプレートを組み合わせても良いでしょう。
- スタートガイド形式+操作別セクション
- FAQ型を巻末に配置して、普段は時系列構成で説明
- 詳細マニュアルとは別に、実務担当者向けの要約版を併用
マニュアルは「完璧に説明すること」よりも「実行されること」が目的である点を、常に意識して構成を検討しましょう。
マニュアルの「読みやすさ」と「使いやすさ」を高めるコツ
どれだけ内容が充実していても、「読みづらい」「使いづらい」マニュアルは、現場では開かれません。実際、多くの現場で使われていないマニュアルには、次のような特徴があります。
- 文字が詰まりすぎていて読む気がしない
- 必要な情報がどこにあるのかわからない
- 見出しや構成がバラバラで流れが追えない
こうした問題は、内容そのものではなく「見せ方」によって生じています。
ここでは、マニュアルを実際に活用されるものにするための、5つの実践的な改善ポイントをご紹介します。
① 見出し・フォント・余白を整えて“視覚設計”を最適化
▶ まずは「読む気になるレイアウト」づくりから
マニュアルの第一印象は、文章の内容ではなく、**見た目(視認性)**で決まります。
とくに長文が続く業務マニュアルでは、「読みやすさ」だけでなく「読む気になるかどうか」が大きなポイントです。
【改善ポイント例】
- フォントサイズに強弱をつける(タイトル:16〜18pt、本文:11〜12pt)
- セクション間に余白を十分に取る(1.5〜2行分のスペース)
- 見出しに色や下線、アイコンを用いて階層が一目でわかるようにする
- 表や箇条書きを使って、情報を視覚的に整理する
【NG例】
- 全文が同じフォント・同じサイズ
- 余白がなく文字がびっしり詰まっている
- 読み飛ばししづらいブロック構成
② 「1トピック1情報」で構成し、読者の理解を助ける
▶ 情報を詰め込みすぎず、目的別に分割する
読者は「一度にすべてを理解したい」のではなく、**「必要な部分だけをサッと知りたい」**と思っています。
だからこそ、1つのセクション・段落に情報を詰め込みすぎると、逆に何も頭に残らなくなります。
【改善ポイント例】
- 「1手順=1アクション」として構成する
- 業務内容が異なる場合は、章や見出しを分ける
- 長文になったら箇条書きや表で再構成
- 例外処理や注意点は、別枠で整理して区別する
【NG例】
- メインの説明の中に、補足や例外を何重にも書き込む
- 同じ段落の中で複数の判断・操作を混在させる
③ 目次・リンク構造を工夫し、“検索しやすさ”を高める
▶ 実務で参照されるマニュアルほど「探しやすさ」が命
マニュアルを最初から通読する人はほとんどいません。
現場では、「必要なときに、必要な情報を、すぐに探せる」ことが最も重要です。
このため、検索性の高い構造設計が不可欠です。
【改善ポイント例】
- ページ冒頭に見出し付きの目次を記載する
- WordやPDFの場合は「ハイパーリンク付き目次」でジャンプ可能にする
- 長文マニュアルでは「検索キーワード一覧」を巻末に設ける
- 章番号(1.1、1.2など)をつけて、情報の場所を整理する
【NG例】
- 目次がない/構成がランダムで見つけにくい
- ページジャンプや検索ができない形式で提供されている(印刷前提)
④ 図・キャプチャ・表を効果的に使い、文章に頼りすぎない
▶ 「見るだけでわかる」情報は、時間短縮とミス防止につながる
文字による説明は必要ですが、すべてを文章で伝えようとすると、読み手の負担が増えます。
特に操作系・手順系のマニュアルでは、図やスクリーンショットを併用することで圧倒的に理解が早くなります。
【改善ポイント例】
- 操作説明には画面キャプチャを挿入し、該当箇所に矢印や枠をつける
- フローチャートで分岐のある手順を可視化
- 作業の種類や頻度ごとに色分けした表を使う
- 手順書の「概要」セクションに図を置くことで流れを先に見せる
【NG例】
- キャプチャなしで操作説明のみを文章で記載
- 概要図がないまま、いきなり詳細手順に入ってしまう構成
⑤ フィードバック欄やコメント記入欄で“運用改善”につなげる
▶ 「使われるマニュアル」は、継続的に改善されるもの
完成時に完璧なマニュアルを目指すよりも、“改善され続けるマニュアル”を設計することの方が、長期的には重要です。
【改善ポイント例】
- 最終ページに「気づき・改善提案」のメモ欄を設置
- 定期的なマニュアルレビュー(例:3ヶ月に1回)を実施
- 利用者からのコメントを記録して、次回改訂に反映
- 複数の利用者が使うGoogleドキュメント等でコメント機能を活用
【NG例】
- 改訂履歴がなく、どこが更新されたかわからない
- フィードバックの受け皿がないため、改善点が現場に残り続ける
「読まれるマニュアル」は、“内容”ではなく“設計”で決まる
わかりやすく、使いやすいマニュアルは、次のような特徴を兼ね備えています。
| 視点 | 工夫の内容 |
| 視覚設計 | 余白、文字サイズ、見出しのデザインなど |
| 情報整理 | 1トピック1情報、段落や項目の分離 |
| 検索性 | 目次、リンク構造、章番号 |
| 補助要素 | 図解・キャプチャ・表の活用 |
| 改善設計 | フィードバックの記入欄、改訂履歴の管理 |
マニュアルを「読まれるもの」に変えるには、読み手の動きを想定した構成・設計の工夫が不可欠です。
作って終わりにしない、マニュアルの運用と改善方法
どれだけ丁寧に作ったマニュアルでも、運用が伴わなければ、やがて陳腐化し、読まれなくなります。特に業務内容や使用ツールが変化する現場では、「更新されていないマニュアル」=「信用できないマニュアル」として扱われることさえあります。
マニュアルを常に最新の状態で維持し、現場で活用され続けるためには、作成後の「運用フェーズ」を戦略的に設計することが不可欠です。
この章では、運用・改善のための3つの柱をご紹介します。
① 利用者からのフィードバックを定期的に収集する
▶ 現場の声を拾い上げ、マニュアルの「ズレ」を可視化
実際にマニュアルを使うのは、作成者ではなく現場のスタッフです。
だからこそ、「使いにくい」「分かりづらい」「探しづらい」といったフィードバックは、マニュアル改善において最も重要な資源になります。
フィードバック収集の方法
- Googleフォームなどの簡易アンケートで意見を集め
- マニュアルの最終ページに記入欄を設けて都度記録
- 新人研修後のヒアリングで「理解できなかった部分」を聞き出す
- 管理者によるレビュー会を定期開催(例:四半期ごと)
記入例
・画面キャプチャが古く、実際の操作画面と違う
・例外処理が載っていないため、現場で都度聞いている
・PDFで検索しにくいので、リンク付きにしてほしい
こうした声を定期的に吸い上げていけば、マニュアルの質は自然と現場にフィットした形へと磨かれていきます。
② 改訂履歴を残し、更新ルールを明文化する
マニュアルは生きたドキュメントであり、「どこが、いつ、どう変わったか」が分かる状態でなければいけません。
変更点が分からなければ、現場のスタッフは安心してマニュアルに頼ることができなくなります。
改訂管理のポイント
- マニュアル冒頭や巻末に「改訂履歴表」を設置する
- 修正箇所に「改訂日」「変更内容」「変更者」を明記
- バージョン管理を明確化(v1.0 → v1.1 → v2.0など)
- 古い版が混在しないように、常に最新版へのアクセス導線を固定
改訂履歴の記載例
| 改訂日 | バージョン | 変更内容 | 変更者 |
| 2025/04/01 | v1.0 | 初版作成 | A. Tanaka |
| 2025/05/15 | v1.1 | 手順③の画面キャプチャを最新に更新 | M. Sato |
こうした履歴を残すことで、「マニュアルが今の業務に合っているかどうか」を判断できる状態になります。
③ 読まれていないマニュアルは、構成・設計から見直す
マニュアルが現場で使われていない場合、多くは次のような構造的課題が隠れています。
- 情報は正しいが、量が多すぎて探せない
- 見出しや項目が整理されておらず、導線がバラバラ
- 読み手の立場やスキルレベルに合っていない
このような状態では、「読むよりも聞いた方が早い」という判断が現場で常態化し、マニュアルの存在価値が下がってしまいます。
再構成のポイント
- 読者層の再定義(新人向けか、経験者向けか)
- セクション構成を「実際の業務フロー」に沿って並び替える
- 情報の粒度を統一(1トピック1情報)し、見出しと導線を整理
- すべての内容を詰め込むのではなく、補足資料やFAQと分離する
構成を見直すことで、マニュアルの読みやすさ・使いやすさが劇的に改善され、「現場で使われるマニュアル」へと再生されます。
わかりやすいマニュアルは構成で決まる
マニュアルを作る目的は、「情報を伝えること」ではありません。
その情報を、誰かが正しく理解し、正しく行動に移せるようにすること。それが本当の目的です。
だからこそ、マニュアルの出来を左右する最大の要素は、内容そのものではなく「構成」にあります。
- 伝える順番に一貫性があるか
- 読み手が迷わず使えるか
- 見出し・分類・ページ構成が直感的か
- 誰に、どのレベルで説明しているか明確か
これらの要素が揃っていれば、極端な話、情報量が多少足りなくても「使えるマニュアル」として成立します。
逆に、いくら正しい情報を載せていても、構成が整っていなければ、現場では「読みにくい」「分かりにくい」「使いたくない」資料になってしまいます。
わかりやすさの正体は、「構造化」と「視点切り替え」
「わかりやすく作ってください」と言われても、曖昧でピンとこないという方は多いかもしれません。
しかしその正体は非常にシンプルです。
- 情報を論理的に構造化し(=どこに何があるかを整理)
- 読み手の視点で並び替え、表現を最適化する(=誰にどう伝えるかを設計)
つまり、「構成力」と「ユーザー視点」が、マニュアルのわかりやすさのすべてを決定づけていると言えます。
マニュアルの質は、業務の質に直結する時代へ
今日のビジネス環境では、人材の流動性が高まり、属人化を避けることが企業運営の重要課題となっています。
このとき、業務知識を誰でも再現できる形で蓄積し、共有できる「仕組み」として、マニュアルが果たす役割はますます大きくなっています。
- 新人が最短で即戦力になるか
- 異動・退職時に業務がスムーズに引き継がれるか
- 品質や判断基準を全社で統一できるか
これらはすべて、「マニュアルが適切に構成され、運用されているか」にかかっているのです。
構成が変われば、マニュアルは「資産」になる
構成設計に力を入れることは、単なる文書整備ではなく、組織にとっての業務資産を築く行為です。
- 新人教育の効率が劇的に向上する
- 二度手間・社内問い合わせが減り、時間が生まれる
- 現場に依存しない「再現性のある業務」が可能になる
こうした成果は、「構成を整える」たった一手間で実現できます。
マニュアルをただ作るのではなく、読まれ、使われ、成果につながるマニュアルにするには、「構成」から見直すことが何よりも効果的です。
構成づくりに迷ったら「業務分解図」から始めよう
「どこからマニュアルを書けばいいかわからない」「内容を整理しようにも、業務が複雑すぎてまとまらない」…そんなときに最も効果的なのが、業務を構造的に分解し、可視化することです。
つまり、「業務分解図(業務フローや階層構造を整理した一覧)」を起点にマニュアルを設計するアプローチです。この方法を用いることで、感覚的だった業務知識が、誰にでも見える形で整理され、どこをマニュアル化すべきかが明確になります。
業務分解図から始めることで得られる3つの効果
① 説明範囲と読者対象が明確になる
マニュアルは「誰に、何を伝えるか」が明確でなければ、構成がブレてしまいます。
業務分解図があれば、各工程ごとに担当者や関係者が特定できるため、読者設定や説明の粒度が自然と定まります。
② 情報の抜け・重複を防げる
業務全体を分解してから着手すれば、見落としや重複のリスクが大幅に下がります。
「この作業はマニュアルに含めるべきか?」という判断も明確になります。
③ マニュアル構成の流れを自然に設計できる
業務分解図に沿って手順を並べれば、それはすでに「論理的な時系列」や「作業単位」で整理された状態です。
そこに項目を肉付けしていくだけで、構成の整ったマニュアルが自然に完成します。
業務分解図は「見える化」と「標準化」の最短ルート
マニュアルは、個人の知識を共有知へと転換し、属人化を防ぎ、再現性を高めるための“仕組み”です。
そのためにはまず、業務の中身を正確に把握し、分解する作業が必要不可欠です。
「業務を見える化したい」
「チーム間の認識ズレをなくしたい」
「どこをマニュアル化すべきか整理したい」
そう考えるすべての方にとって、業務分解図は最も効果的な出発点となります。
マニュアルの質は、構成設計で決まる
どんなに業務に詳しくても、どんなに手順が正しくても、読み手が理解できなければ意味がありません。わかりやすいマニュアルには、わかりやすい構成が必要です。
そして、わかりやすい構成をつくるには、業務を構造的に整理する“設計図”が必要です。マニュアル作成で悩んだら、まずは一歩引いて、業務を分解してみてください。全体像が見えたとき、何をどの順番で伝えるべきかが自然と見えてきます!
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[Complete Guide] How to Structure Clear Manuals: Practical Layout and Improvement Tips
業務分解図で業務を“見える化”しよう
業務改善・マニュアル整備・新人教育・DX推進。
すべての出発点は、業務を分解して理解することです。
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