働くスタッフの退職は、どの企業でも起こり得る出来事です。

退職手続きは、社会保険や雇用保険などの法令対応、給与や書類の精算、業務引き継ぎなど、ミスが許されない業務が重なります。一つひとつの作業は難しくなくても、全体像を把握しないまま進めると手続き漏れや社内トラブルにつながることがあります。

こうしたリスクを防ぐために有効なのが、退職手続きをマニュアルとして活用し、仕組み化することです。

本記事では、退職手続きマニュアル作成時のポイントや、業務を効率化する手順をわかりやすく解説します。

働くスタッフの退職はどの企業でも起こり得ますが、退職手続きは法令対応や書類精算、業務引き継ぎなど、ミスが許されない業務が重なります。本記事では、退職手続きが属人化しやすい理由や、マニュアル化が求められる背景を整理したうえで、基本的な流れ、よくある項目、作成時の重要ポイントを解説。退職対応を「個人対応」から「仕組み」に変え、手続き漏れやトラブルを防ぐための考え方と実践方法を紹介します。

目次(開く場合はクリック)

退職手続きマニュアルとは何か

退職手続きマニュアルとは、社員が退職する際に発生する一連の業務を順序立てて整理した業務マニュアルです。

退職の意思表示を受けてから、最終出勤日・退職日を経て、退職後の書類対応が完了するまでの流れを網羅的にまとめたものを指します。

退職手続きが属人化しやすい理由

退職手続きが属人化しやすい主な理由は、発生頻度の低さと状況ごとの違いにあります。

退職手続きは日常的に繰り返す業務とは異なり、月に何度も発生するものではありません。そのため、担当者の中で手順が定着しにくい傾向があります。

さらに、退職理由や雇用形態、勤続年数、有給休暇の残日数など、社員ごとに前提条件が異なるため、前回と同じ対応ができない点も属人化になりやすい要因です。

また、人事・総務業務は少人数体制で回している企業も多く、特定の担当者だけが退職手続きに詳しい状態になりがちです。その担当者が不在だったり、異動・退職したりすると、引き継ぎが不十分なまま業務が止まってしまうケースも珍しくありません。

こうした柔軟さがルール化・標準化を後回しにする要因となり、結果的に属人化を深めてしまいます。

マニュアル化が求められる背景

近年、退職手続きのマニュアル化が求められる背景には、働き方や雇用環境の変化が関係しています。

終身雇用が前提だった時代と比べ、転職やキャリアチェンジが一般的になり、企業側も退職対応を例外対応として扱えなくなっているのです。

また、正社員だけでなく、契約社員・パート・アルバイトなど雇用形態が多様化している点も見逃せません。雇用形態ごとに必要な手続きや注意点が異なるため、担当者の知識だけに頼る運用には限界があります。

さらに、法令や制度の変更が定期的に行われる点も、マニュアル化が必要な理由の一つです。社会保険や雇用保険の手続きは制度改正の影響を受けやすく、古い認識のまま対応すると、行政指導やトラブルにつながる恐れがあります。

人事・総務担当者の業務負担が増加していることも背景にあります。限られた人員で複数業務を並行して進める中、毎回判断に迷いながら退職対応を行うのは大きな負担です。

退職手続きをマニュアル化することで、誰でも同じ対応ができる業務へと変えられます。

退職手続き全体の基本的な流れ

退職手続きは単発の作業ではなく、いくつもの工程が連なっています。全体像を把握せずに対応を始めてしまうと、「次に何をすべきかわからない」「もう終わったと思っていた作業が残っていた」といった混乱が起こりやすくなるのです。

ここでは、多くの企業で共通する基本的な流れを3つに分けて解説します。

退職の意思表示を受けた直後に行うこと

退職手続きは、社員からの退職意思表示を受けた時点から始めます。口頭での相談や申告であっても、「いつ・誰から・どのような形で意思表示があったのか」を記録しておくことが重要です。

次に確認すべきなのが、就業規則や雇用契約書に定められた退職に関するルールです。退職の申し出期限や退職届・退職願の扱い、有給休暇の取得条件などを踏まえ、会社としての正式な手続きを案内します。

この段階で退職届の提出方法や今後のスケジュール感を本人に共有しておくと、その後のやり取りがスムーズです。特に「いつまでに何が必要か」を伝えておかないと、後の工程に影響が出やすくなります。

退職日までに行う社内手続き

退職日までの期間は社内調整や実務対応が重なり、対応が立て込みやすい時期です。

そのため、退職日までに引き継ぎ対象となる業務範囲を整理し、誰に引き継ぐのかを明確にします。その際、業務内容だけでなく取引先情報や進行中の案件状況、判断基準なども含めて引き継ぐことが必要です。

あわせて、貸与物や備品、社内システムの利用状況も確認しましょう。PC・スマートフォン・入館証・各種アカウントなど、退職日までに回収・停止が必要なものを一覧で管理しておくことが重要です。

この期間は、関係部署との連携が不可欠です。人事・総務だけで完結する業務ではないため、スケジュール共有と進捗確認を意識的に行う必要があります。

退職後に必要な対応

退職日を迎えた後も、企業側の対応がすべて終わるわけではありません。

退職後に必要な対応の一つが、社会保険・雇用保険の資格喪失手続きです。こうした手続きは提出期限が定められており、対応が遅れると行政上の問題に発展する可能性があります。

参照:健康保険法 第48条

(届出)

第四十八条 適用事業所の事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、被保険者の資格の取得及び喪失並びに報酬月額及び賞与額に関する事項を保険者等に届け出なければならない。

また、源泉徴収票や離職票などの書類発行・送付も、退職後に行う業務です。発行時期や送付方法をあらかじめ整理しておかないと、退職者からの問い合わせが増え、対応負担が大きくなります。

退職後の対応まで含めて初めて「退職手続きが完了する」という認識を持ちましょう。

退職手続きマニュアルのよくある項目

退職手続きマニュアルを作成する際は、「何となく対応している業務」をすべて洗い出し、項目として明文化することが重要です。

ここでは、退職手続きマニュアルによくある項目について解説します。

退職届・退職願の提出と受理

まず欠かせないのが、退職届と退職願の扱いです。

退職願は退職の意思を会社に申し出るための書類であり、会社の承認を前提とします。一方、退職届は退職が確定した後に提出する届出書類で、提出をもって退職の意思が最終的に確定します。

そのうえで、次の点を明確にしておく必要があります。

  • 退職届と退職願のどちらを提出してもらうのか
  • 書式は自由か会社指定か
  • 提出期限はいつまでか

また、提出された書類を「誰が」「どの時点で」受理とするのかも重要なポイントです。受理の判断が曖昧なまま進めると、退職日をめぐる認識のズレやトラブルにつながる可能性があります。

退職日・最終出勤日の確定

退職日と最終出勤日は、必ずしも同じ日になるとは限りません。有給休暇の残日数や取得方法によって、最終出勤日が前倒しになるケースもあります。

退職手続きマニュアルでは、退職日を確定させるまでの確認事項や、関係部署への共有タイミングを整理することが重要です。特に給与計算や社会保険手続きに影響するため、日付の確定方法は明文化しておく必要があります。

業務引き継ぎ・引き継ぎ資料の作成

業務引き継ぎは、退職手続きの中でも業務影響が大きい項目です。単に「引き継ぎを行う」ではなく、何をどこまで引き継ぐのかを明確にする必要があります。

引き継ぎ資料のフォーマットを定めておけば、内容の抜け漏れを防ぎやすくなります。また、引き継ぎが完了したかどうかの確認方法も、マニュアル内で定義しておくと安心です。

貸与物・備品・アカウントの回収

退職時には、会社から貸与している物品の返却や業務で使用しているアカウントの停止措置が必要です。

こうした場合も、回収対象となる物品や停止すべきアカウントを一覧化しておけば対応漏れを防げます。

特に、システムアカウントやクラウドサービスの権限管理は、情報管理の観点からも重要です。

社会保険・雇用保険の資格喪失手続き

退職に伴い、社会保険・雇用保険の資格喪失手続きも行います。提出書類や提出期限、提出先をマニュアルに明記しておけば、担当者が変わっても迷わず対応できます。

手続きが遅れると、本人だけでなく会社側にも影響が及ぶため、特に注意が必要な項目です。

給与・賞与・退職金の精算

最終給与の支払日や計算方法、控除項目についても記載しましょう。賞与や退職金がある場合は、支給条件や支給時期についても明記します。

退職時の金銭に関する説明は問い合わせが多くなりやすいため、あらかじめ説明内容を整理しておくと負担が軽減されます。

源泉徴収票・離職票などの書類対応

源泉徴収票や離職票など、退職後に対応が必要な書類は複数あり、発行時期や送付方法も一律ではありません。書類ごとに「発行のタイミング」「担当者」「送付方法」を整理し、一覧で管理しておくことで、退職後対応を安定して進められます。

本人への案内文面をあらかじめ用意しておくのも効果的です。

退職後の連絡先・個人情報の取り扱い

退職後に連絡が必要になるケースに備え、連絡先の取り扱いルールを明確にします。また、退職者の個人情報をどの範囲まで保管し、どのように管理するのかも整理が必要です。

個人情報の取り扱いはトラブルにつながりやすいため、対応方針をマニュアルとして明文化し、社内で共有しておくことが欠かせません。

退職手続きマニュアル作成時の重要ポイント

退職手続きマニュアルは、項目を並べただけでは現場で機能しません。実際の担当者が「このとおり進めれば大丈夫」と判断できる状態まで落とし込むことが重要です。

ここでは、退職手続きマニュアルを形だけの資料で終わらせず、実務で使われ続けるものにするための重要ポイントを解説します。

誰が見ても迷わない手順にする

マニュアル作成で意識すべきなのは、「初めて見る人でも判断できるか」という視点です。ベテラン担当者にとっては当たり前の工程でも、引き継ぎを受けたばかりの担当者には判断が難しい場面が多くあります。

そのため、「退職届を受け取る」「関係部署へ連絡する」といった抽象的な表現だけで終わらせず、以下の項目を具体的に記載しましょう。

  • どの書類を
  • 誰から
  • どの形式で受け取り
  • 次に何をするのか

文章量が多少増えても、「考えなくても進められる状態」を優先した構成にすれば、実務での迷いを減らせます。

期限・担当者・判断基準を明確にする

退職手続きで混乱が起きやすい原因の一つが、「いつまでに」「誰が」「どこまで判断するのか」が曖昧な点です。特に、提出期限や手続き期限が関わる業務では、担当者の判断に任せる運用はリスクが高くなります。

マニュアルでは、各工程ごとに以下を明記しましょう。

  • 対応期限
  • 主担当者
  • 確認・承認が必要なケース

また、例外対応が発生しやすいポイントについては、「この条件に当てはまる場合は上長確認が必要」といった判断基準をあらかじめ示しておくと、現場での判断負担を軽減できます。

法令・制度変更に対応できる構成にする

退職手続きに関わる制度やルールは、固定されたものではありません。社会保険や雇用保険の手続き内容、提出様式、提出期限などは、制度改正によって変更される可能性があります。

そのため、マニュアルを一度作って終わりにするのではなく、更新を前提とした構成にしておくことが重要です。

たとえば、制度説明と自社ルールを分けて記載したり、提出先や様式名を一覧化したりすると、変更時の修正がしやすくなります。

どこを直せば最新状態になるのかが分かるマニュアルは、長期的な運用に向いています。

退職手続きでよくあるトラブルと注意点

退職手続きは、業務対応・法令対応・感情面への配慮が同時に求められるため、トラブルが起こりやすい業務の一つです。「これくらい大丈夫だろう」という判断が、後から大きな問題に発展するケースも少なくありません。

ここでは、退職手続きで実際に多いトラブルと注意点について解説します。

手続き漏れによる労務・行政トラブル

退職手続きで多いのが、社会保険・雇用保険などの手続き漏れです。資格喪失届の提出遅れや書類の不備によって、行政からの指摘や是正対応が必要になるケースがあります。

原因の多くは、「誰が対応するのか」「どのタイミングで行うのか」が明確になっていないことです。担当者の不在や引き継ぎ不足によって、対応自体が抜け落ちてしまうこともあります。

マニュアル上で期限・担当者・提出先を明示しておくことが、こうしたトラブルを防ぐ基本対策です。

引き継ぎ不足による業務停滞

退職後に業務が回らなくなる原因として多いのが、引き継ぎ不足です。引き継ぎ資料は作成されていても内容が不十分だったり、最新情報が反映されていなかったりするケースもあります。

特に問題になりやすいのが、以下の項目です。

  • 属人的に対応していた業務
  • 判断基準が明文化されていない業務
  • 取引先とのやり取り履歴

引き継ぎを「資料を渡して終わり」にするのではなく、完了確認まで含めて手順化しましょう。

感情対応が業務判断に影響するケース

退職理由によっては、感情的な対応が必要になる場面もあります。しかし、感情面への配慮が優先されすぎると、本来必要な業務判断が後回しになることがあります。

たとえば、「円満に送り出したい」という意識から引き継ぎ内容の確認が十分に行われないまま退職日を迎えてしまったり、備品の返却やアカウント停止の確認が後回しになったりするケースです。

円満・不円満にかかわらず、退職時の業務対応は一定のルールに沿って進めるという前提を、マニュアルとして明確にしておくことが重要です。

退職手続きをマニュアル化するメリット

退職手続きをマニュアル化する目的は、「業務を楽にすること」だけではありません。業務品質を一定に保ち、手続き漏れや判断ミスといったリスクを防ぎながら、組織全体の業務をスムーズに回せるのがメリットです。

ここでは、退職手続きを仕組み化することで得られる具体的なメリットを3つ解説します。

担当者ごとの対応差を防げる

マニュアルがない状態では、担当者の経験や知識量によって対応内容に差が出やすくなります。ある担当者ではスムーズに進んだのに、別の担当者では説明不足や手続き漏れが起きる、といった事態も珍しくありません。

退職手続きをマニュアル化しておけば、誰が対応しても同じ流れ・同じ判断基準で進められます。結果として、社内外に対して一貫した対応が可能になります。

急な退職・同時退職にも対応できる

退職は必ずしも計画どおりに発生するものではありません。突発的な退職や、複数人の同時退職が起こることもあります。

退職手続きマニュアルが整備されていれば、通常より負荷の高い状況でも、業務を止めずに対応できます。

「誰が何をすればいいか」が明確なため、臨時対応が属人化しにくくなります。

人事・総務の心理的・業務的負担が減る

退職対応は判断に迷う場面が多く、心理的な負担も大きい業務です。退職手続きマニュアルがないとその都度調べ直したり、過去の対応を探したりする必要があります。

そこで退職手続きマニュアルに手順が整理されていれば、「合っているか不安」という状態から解放され、業務に集中できます。結果として、担当者の負担軽減と業務効率の向上につながります。

退職手続きマニュアルを整備する方法

退職手続きマニュアルは、いきなり文章を書き始めても実務で使える形にはなりません。重要なのは、現場で実際に行っている業務を正確に把握し、整理したうえで形にすることです。

ここでは、退職手続きを無理なくマニュアル化するための進め方を段階ごとに解説します。

現行業務の洗い出しと整理から始める

最初に行うべきは、「現在どんな業務をしているのか」をすべて洗い出すことです。たとえば以下の業務です。

  • 勤怠締め
  • 給与計算の準備
  • 請求書処理
  • 備品発注
  • アカウント管理

この段階では、正解かどうかを考える必要はありません。実際にやっていることを、時系列で整理することが重要です。

洗い出しが終わったら、以下のように切り分けていきます。

  • 必ず行っている業務
  • ケースによって対応が変わる業務
  • 人によってやり方が違う業務

こうして「属人化している部分」「判断が曖昧な部分」が見えてきます。

チェックリスト・様式を一元管理する

退職手続きでは、確認作業や書類対応が多く発生します。こうした業務を文章だけで管理しようとすると、抜け漏れが起こりやすくなります。

そのため、退職手続きマニュアルとあわせて以下をセットで整備することが重要です。

・退職対応チェックリスト

・提出書類一覧

・引き継ぎ資料のフォーマットなど

また、こうした資料は保管場所を一元化しておく必要があります。「どこを見れば最新の様式があるのか」が分からない状態では、マニュアルがあっても運用されません。

必要に応じて外部のプロを活用する

自社だけで整理を進めようとすると、「これで正しいのか分からない」という不安が残ることがあります。特に、法令対応や制度面に不安がある場合は、無理に内製化する必要はありません。

社会保険や雇用保険の手続き、労務管理に関する部分は、専門家の視点を取り入れることで、抜け漏れを防ぎやすくなります。また、業務整理そのものを第三者に任せれば、現場では気づきにくい改善点が見えることもあります。

マニュアル整備は一度きりの作業ではありません。外部の力を活用しながら、段階的に精度を高めていくのも有効です。

退職手続きは「個人対応」から「仕組み」へ

退職手続きは、どうしても「特別な対応」「その都度判断が必要な業務」と捉えられがちです。しかし実際には、一定の流れとルールに沿って進められる再現性の高い業務でもあります。

属人化した状態が続くと、担当者が変わるたびに対応内容や説明の仕方に差が生じやすくなり、手続き漏れや判断ミスが起こるリスクも高まります。

一方で、退職手続きをマニュアルとして整理すれば、「誰が対応しても同じ手順で進められる」「考えなくても確認しながら進められる」状態をつくれます。

まずは、現在の退職対応を一度洗い出し、人によってやり方が違っていないか、判断を個人に委ねていないかといった点を確認するところから始めてみましょう。

How to Create a Resignation Procedure Manual:
A Clear Guide to Preventing Knowledge Silos and Streamlining Operations

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