「この仕事、誰に聞けばいいんだろう」「前任者のやり方が分からない」
そんな声が、現場から上がっていませんか?

業務が属人化し、情報が個人の頭の中に閉じ込められたままでは引き継ぎに時間がかかるばかりか、ミスやトラブルの温床にもなります。とくにリモートワークや人の入れ替わりが多い職場では、属人化の影響がより深刻になりがちです。

こうした課題の解決に欠かせないのが、「マニュアルの整備と管理」です。
手順やルールを言語化し、誰でも迷わず業務を進められる状態をつくることは単なる効率化にとどまらず、チーム全体の生産性や品質、働きやすさにも直結します。

本記事では、マニュアル作成の基本から活用されるための管理・運用方法、よくある失敗例とその対策までを詳しく解説します。

なぜマニュアル作成と管理が重要なのか?

マニュアルを整備することは、業務の手順を言語化するにとどまりません。誰がやっても一定の品質を保てる、担当が変わっても引き継ぎに困らない状態をつくる、いわば組織の“基盤”を整える作業です。

業種や職種を問わず、業務の再現性・効率性・持続性を高めたいと考える企業にとって、マニュアルの作成と管理は欠かせない取り組みとなっています。

ここでは、マニュアルが果たす役割について、以下の4つの視点から整理していきます。

業務の属人化を防ぐため

マニュアルがない、もしくは整備されていない職場では、業務のやり方が人によって異なることがよくあります。これは一見、経験や勘に頼った柔軟な対応のようですが、実際には「担当者がいないと進まない」「他の人が対応できない」といった属人化のリスクを高める原因になります。

マニュアルがあれば誰でも同じ手順で業務を進められるため、特定の人にしかできない仕事を減らすことが可能です。担当者が休んだときや急な人員交代があった場合にも業務をスムーズに引き継ぐことができ、組織としての対応力もアップするでしょう。

新人教育・引き継ぎの効率化

新しいメンバーが入るたびにゼロから手取り足取り教えるのは大きな負担です。人によって教える内容にばらつきが出ると、教育の質にも影響しかねません。

マニュアルを整備しておけば新人はまず基本的な情報を自分で確認でき、担当者は補足やフォローに集中しやすくなります。その結果、教育にかかる時間が短縮され、教える側の心理的な負担も軽くなります。

また、いったん業務を離れた人が再び現場に戻ってきた際も、マニュアルがあればスムーズに業務へ復帰できるでしょう。

ミスの防止・業務品質の標準化

マニュアルがあると作業手順の抜け漏れを防ぐことが可能です。とくにルーチン業務やチェック項目の多い業務では、都度確認できる仕組みがあるかどうかでミスの発生率が大きく変わります。

また、「ベテランならできるが新人だとミスが出やすい」といった属人的な問題も、マニュアルで標準手順を共有しておくことで解消しやすくなります。業務の精度を一定水準に保つうえでも、マニュアルの存在は欠かせません。

リモートワーク・多拠点対応にも有効

出社や対面での指導が前提だった時代と違い、今はリモート勤務や拠点の分散化が進んでいます。こうした環境下では口頭で教える機会が限られるため、マニュアルの整備がより重要です。

どこからでも同じ内容にアクセスでき、作業の進め方が誰にとっても明確であることは、遠隔地の社員や非正規スタッフにとっても心強い支えになります。場所や時間に縛られない働き方を支える土台として、マニュアルの活用が求められています。

マニュアル作成の基本ステップ

マニュアルは「とりあえず手順を並べればよい」というものではありません。読み手の理解度や業務の複雑さに応じて、構成や表現を工夫しなければ、形だけ整っていても使われなくなってしまいます。逆に、読み手目線に立って丁寧に設計されたマニュアルは現場の混乱や属人化を防ぎ、業務を安定して回す力になります。

ここでは、実際に現場で使われるマニュアルを作るための基本ステップを順を追って紹介します。

① 対象業務と目的の明確化

まず、「何のためにこのマニュアルを作るのか」「どの業務を対象にするのか」を明確にしておくことが重要です。目的と対象があいまいなまま作り始めると、内容の過不足が起きやすくなり、結果的に使いにくいマニュアルになってしまいます。

たとえば、「新入社員が最初に確認する業務一覧」と「月次レポートの作成手順」では、求められる粒度や構成がまったく異なります。読み手の前提知識や、どのレベルの行動が求められるのかを想定したうえで、必要な情報を取捨選択しましょう。

マニュアルの対象者(誰が読むのか)と目的(何をできるようにするか)を定めておくと、内容の取捨選択がしやすくなり、後の工程でも方向性がぶれにくくなります。

② 手順・ルールの洗い出し

対象業務が決まったら、その業務の実態を細かく洗い出していきます。実際に現場でその作業を担当している人に話を聞きながら、普段の流れをできるだけ具体的に記録しましょう。

単に「◯◯を入力する」などの操作手順だけでなく、次のような観点も意識すると、実用性が高まります。

  • よくあるミスや見落としがちなポイント
  • 判断に迷う場面での基準や対応例
  • 作業を早く正確に進めるちょっとしたコツ

「慣れている人なら当たり前」と思われがちな情報こそ、マニュアルに記録しておくことで、新人や引き継ぎ者の迷いを減らすことができます。

③ 分かりやすい構成と表現にする

情報をきちんと集めても、構成や見せ方が分かりにくければ、マニュアルは活用されません。特に読み慣れていない人にとっては、見出しの付け方や情報の並び順が重要です。

基本的には以下のような構成を意識すると、伝わりやすくなります。

  • 業務の流れに沿って並べる
  • 1見出し1トピックにする
  • 「何をするか」と「どう判断するか」は分けて記述する

表現についても、専門用語には簡単な説明を添えるなど、読み手の理解度に配慮した書き方が求められます。文はできるだけ簡潔にし、「〇〇してください」「〇〇を確認する」といった具体的な指示を明確に記載することがポイントです。

④ 図解・動画・テンプレートの活用

文章だけで伝えきれない手順や注意点は、図や画像を取り入れることで、理解度がぐっと上がります。たとえば操作画面のスクリーンショットに番号をつけて説明を加えるだけでも、口頭での補足がいらなくなる場面は多くあります。

また、以下のような補助素材を加えると、マニュアルの利便性が高まります。

  • よく使う文書やチェックリストのテンプレート
  • フォーマット付きの報告書・依頼書
  • 実際の操作を示した短い動画

ただし、動画は情報の検索性や更新のしやすさに課題があるため、文字や図との併用がおすすめです。あわせて資料を整備しておくことで読み手の負担を軽減でき、業務の再現性も高まりやすくなります。

⑤ レビュー・改善を繰り返す体制を作る

マニュアルは「完成したら終わり」ではありません。むしろ、作った後にどう運用し、どう改善していくかが本番です。現場での使われ方や利用者からの声をもとに、常に内容を更新できる仕組みを用意しておく必要があります。

たとえば、以下のような運用ルールを取り入れることで、マニュアルの品質を保ちやすくなります。

  • 四半期ごとの定期見直しを社内ルールにする
  • 利用者が気づいた修正点を気軽に報告できる窓口を設ける
  • 実際の利用ログやアクセス数から使用状況を確認する

こうした改善の仕組みがあることで、マニュアルは組織の中で「日々使われる前提のツール」として定着していきます。

マニュアル管理の具体的な方法

マニュアルは作っただけでは意味がありません。更新されずに放置されたり、どこにあるか分からなかったりすれば、結局誰も使わなくなります。実務で活用されるためには、適切な方法で管理・運用していく仕組みが欠かせません。

ここでは、代表的な管理手法とそれぞれの特徴や注意点について解説します。

紙・Excel・PDFなど従来型の管理法

これまで多くの企業で使われてきたのが、紙のマニュアルやExcel・Word・PDFでの管理です。既存のオフィスソフトで作成でき、すぐに印刷・配布できる手軽さがある一方で、次のような課題もあります。

  • ファイルのバージョン管理が難しい
  • どこが最新版か分かりにくい
  • 保管場所が個人に依存してしまう

情報が更新された際に全員へ確実に反映される保証がなく、属人化や混乱の温床になりやすい点に注意が必要です。

クラウドツール(Google Drive、Notion等)での一元管理

クラウドストレージやナレッジ管理ツールを活用すれば、マニュアルを社内で一元管理できるようになります。Google Driveでフォルダごとに整理したり、Notionで検索性の高いドキュメントを作成したりすることで、情報の見通しが格段によくなります。

リアルタイムでの編集や共有が可能になるため、常に最新情報にアクセスできる状態を保ちやすく、リモートワークにも対応しやすい仕組みです。

SaaS型マニュアル管理ツール(例:Teachme Biz、Kibela)

専用のSaaSツールを導入することで、マニュアルの作成・管理・共有・分析までを一元的に行えるようになります。代表的な機能は以下の通りです。

  • ステップごとの画像付き手順作成
  • 閲覧・編集履歴の自動記録
  • 社内メンバーへの周知・通知機能
  • アクセス制限の設定

とくに多拠点展開や複数部門での活用を想定する場合には、SaaSツールの利便性が活きてきます。

バージョン管理と履歴管理の重要性

業務が変わるたびにマニュアルを更新する必要がありますが、過去の内容を残さずに上書きしてしまうと、変更の履歴や理由が追えなくなってしまいます。

  • いつ・誰が・どこを修正したのかを記録する
  • 旧バージョンをアーカイブとして残しておく
  • 更新履歴が一目で分かる仕組みを作る

こうした管理ができていれば、万が一誤って更新してしまった場合にもすぐに戻せるほか、第三者が見ても変更の経緯が把握できます。

アクセス権・編集権の設定ルール化

マニュアルの情報は社内でも扱いに注意が必要です。誰でも自由に編集できる状態では誤って内容が書き換えられたり、重要な情報が削除されたりするリスクがあります。

  • 読み取り専用と編集可能の権限を分ける
  • 編集権限は部門ごと・役職ごとに設定
  • 公開範囲(社内全体/特定部署のみ)を明確にする

アクセス管理ができていないと、誤情報の拡散や責任の所在の不明瞭化につながります。信頼されるマニュアル運用には、こうした「管理のルール化」が欠かせません。

マニュアル運用を定着させるポイント

マニュアルは現場で実際に活用され、継続的に更新・改善されていくことで、初めて意味を持ちます。そのためには、「誰が」「いつ」「どう使うのか」というルールと仕組みを整えることが重要です。

ここでは、マニュアルの運用を日常業務に定着させるためのポイントを4つ紹介します。

現場の声を反映する更新ルール

マニュアルが実際の業務と乖離していると、すぐに「使えない資料」と見なされ、形骸化してしまいます。だからこそ、現場のリアルな声を反映させ続ける仕組みが欠かせません。

たとえば、以下のような方法が考えられます。

  • 定期的なフィードバックの場を設ける(週次のチームミーティングなど)
  • コメントや修正案を手軽に投稿できる仕組みを用意する
  • 「これは改善したい」と感じた瞬間に気軽に発信できる文化をつくる

こうした仕組みがあることで、マニュアルは一部の管理者ではなく「みんなで育てるもの」になります。

業務と連動したタイミングでの見直し

業務フローの変更や新システムの導入など、現場のオペレーションが変わったときはマニュアルも見直す必要があります。

しかし、「気づいたときにやる」では忘れられがちです。そこで重要なのが、「見直すべきタイミング」をあらかじめ業務とセットで決めておくことです。

たとえば次のようなルールを定めておくと、更新漏れを防ぎやすくなります。

  • 業務フローの変更があったらマニュアルも要見直し
  • プロジェクトの完了時に関係マニュアルの整合性を確認
  • 新しいツールを導入した際には操作手順の更新を必須化

このように業務イベントと見直しのタイミングを紐づけておくことで、内容の陳腐化を防ぎやすくなります。

誰でも編集・提案しやすい仕組みを整える

マニュアルが一部の人しか触れない「堅いドキュメント」になってしまうと、改善提案も出にくくなります。日常的に使っている人が気づいた点をその場で共有・反映できる環境を整えることで、内容の鮮度を維持しやすくなり、実際の業務にも即した情報が蓄積されていきます。

たとえば、以下のような仕組みが有効です。

  • GoogleドキュメントやNotionのように、コメント機能付きのツールを使う
  • 提案専用のフォームやチャットチャンネルを設ける
  • 「こうしたらもっと分かりやすくなる」という改善を歓迎する文化をつくる

編集権限を明確にしつつ、提案・意見を気軽に発信できる空気を作り出すことで、マニュアルは常に現場に寄り添う生きたツールになります。

定期的なマニュアル活用の研修や周知

せっかく整備したマニュアルも、存在を知られていなければ使われません。入社時の研修でマニュアルの存在を説明する、業務研修に組み込む、定期的なアナウンスを行うなど、利用を促す取り組みが必要です。

  • 入社時のオリエンテーションで必ずマニュアルを紹介する
  • 業務研修で実際にマニュアルを使う体験を組み込む
  • 月次のお知らせや社内報で定期的にマニュアル更新を案内する

また、「マニュアルに載っているから、自分で確認しよう」という文化が定着すれば、問い合わせ対応の負担も軽減されていきます。運用定着のためには地道な周知と活用推進が大切です。

よくあるマニュアル作成・管理の失敗例と対策

マニュアル整備に取り組む企業は増えていますが、「作ったのに使われない」「更新されないまま放置されている」といった失敗も多く見られます。形だけのマニュアルにならないためには、ありがちな失敗パターンを理解し、あらかじめ対策を講じておきましょう。

作っただけで使われない(閲覧性・検索性の改善)

マニュアルの整備自体は進んでいても、「場所が分からない」「検索しても出てこない」「フォルダを開いても目的のページが見つからない」といった理由で、実際には現場で使われていないケースが多くあります。

とくに階層が深すぎるフォルダ構造や、タイトルが曖昧で検索に引っかからない状態は致命的です。そういった場合は以下のような対策をしましょう。

  • タイトルや見出しに検索しやすいキーワードを入れる
  • 頻出の業務やページをまとめた「リンク集」や「よく使うマニュアル」ページを用意する
  • 表紙ページやインデックスを作ってアクセス経路を明確にする
  • フォルダ構成は3階層以内に収めるのが理想

情報の探しやすさ次第で、マニュアルが現場で使われるかどうかが決まります。

情報が古くなる(定期更新の仕組み)

マニュアルの内容は一度作って終わりではなく、常に最新であることが求められます。

しかし、業務ルールや使用ツールの変更が多い現場では、数ヶ月で実情とズレが生じることも珍しくありません。

たとえば、次のような仕組みを整えると効果的です。

  • 更新担当者を明確にし、責任範囲を決めておく
  • 「更新日」「最終確認日」をマニュアルに記載し、チェックのリマインドを仕掛ける
  • 業務ルール変更時はマニュアルもセットで見直すルールにする

ルールと役割を明文化して情報の鮮度を保ちましょう。

内容が抽象的すぎる(具体例・画像を追加)

「顧客対応を丁寧に」「帳票の確認を徹底する」など、抽象的な表現が多いマニュアルは読む人によって解釈が分かれやすく、実践に活かされにくくなります。こうした事態を防ぐためには、以下のような工夫が有効です。

  • 「この文面を送る」「この項目をチェックする」など、できる限り行動レベルに落とし込む
  • 実際の画面キャプチャを載せ、どこをクリックすべきか番号付きで説明する
  • NG例・OK例を並べて、判断基準の違いを明示する
  • 動画やGIFを使って動きのある手順も補完する

誰が見ても同じように行動できる状態を目指すことが、マニュアルの本質です。

編集権限が曖昧(役割分担の明確化)

マニュアルの管理者が決まっていなかったり、編集権限が全員に与えられていたりすると、「どこを誰が直したのか分からない」「重要な手順が削除されていた」といったトラブルが起こりがちです。

このような事態を避けるために、次のような点に注意しましょう。

  • 管理者・編集者・閲覧者の役割を明確に分ける
  • 修正時には「変更履歴を残す」「承認フローを通す」仕組みを用意する
  • 更新通知を関係者に自動で送るなど、変更点の共有を徹底する
  • 承認フローを簡略化するために、更新テンプレートを用意しておく

運用の属人化を防ぎ、マニュアルの信頼性を担保するには誰が・どのように関わるかのルールづくりが不可欠です。

業務効率化の鍵は「作成」より「管理と運用」

マニュアルは、業務の属人化を防ぎ、生産性を高めるための有効な手段です。とはいえ、作ること自体が目的になってしまうと、現場で使われずに形だけのものになってしまう恐れがあります。

大切なのは「誰のために、どんな場面で必要とされるのか」を意識しながら、作成から更新・運用までを一つの流れとして考えることです。実際の業務に根ざしたマニュアルが整っていれば、社員は迷うことなく行動でき、日々の業務もスムーズに進むようになります。

マニュアルの価値をしっかりと活かすためにも、作成だけで終わらせず、「管理」と「運用」までを見据えた仕組みづくりに取り組んでいきましょう。

マニュアル管理には「業務分解図」の活用もおすすめ!

マニュアル管理の第一歩は、業務全体を構造的に見える化することです。
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