2025年3月、帝国データバンクが公表した調査結果が注目を集めました。「人手不足型倒産」として分類された廃業のうち、後継者難・従業員退職を主因とするケースが前年比1.5倍に増加し、とりわけ従業員50名以下の中小企業においてその傾向が顕著であるというのです。

こうした廃業リスクの背景に、「業務の属人化」という構造的な問題が潜んでいます。特定の人物しか知らない業務フロー、ベテランの頭の中にしかないノウハウ。「あの人が辞めたら、うちの会社は回らない」という状況が、倒産の引き金を引いています。

本記事では、属人化廃業リスクのリアルを事例を交えながら解説するとともに、業務マニュアルを中心とした具体的な解決策を提示します。また、mayclassが大切にしている「一部の属人化は推奨する」という考え方も紹介しながら、正しい属人化解消のアプローチを考えていきます。

属人化とはなぜ中小企業ほど深刻になるのか

「属人化」とは、特定の業務やノウハウが特定の個人に依存している状態を指します。その人がいれば問題なく回るが、休んだり辞めたりした途端に業務が止まる。そういった状況が長期化したものです。

参考:【2025年版】属人化とは?意味やリスク、ツールを使った解消方法を徹底解説

属人化が発生しやすい3つの原因

属人化は、特定の社員の能力が高いことだけで起こるものではありません。
多くの場合、日々の業務の進め方や組織の体制、マニュアル整備の遅れが重なって発生します。特に中小企業では、人員に余裕が少ないため、目の前の業務をこなすことが優先され、知識や手順の共有が後回しになりやすい傾向があります。

ここでは、属人化が発生しやすい代表的な原因を3つに分けて解説します。

属人化が発生する大きな原因の一つが、業務量の偏りです。
特に、経験豊富な社員や対応が早い社員、判断力のある社員には、自然と重要な業務が集まりやすくなります。

たとえば、営業事務であれば「この顧客の対応は〇〇さんが一番詳しい」、経理であれば「月次処理は〇〇さんに任せた方が早い」、現場業務であれば「トラブル対応はベテランに聞けば分かる」といった状態です。

このような状態が続くと、担当者本人の中には、細かな判断基準や例外対応のノウハウ、過去の経緯などがどんどん蓄積されていきます。
しかし、それが文書化されないままだと、周囲のメンバーには共有されません。結果として、「その人に聞かないと分からない」「その人がいないと判断できない」という状態が生まれます。

さらに、担当者本人も「説明するより自分でやった方が早い」と感じやすくなります。
そのため、知識の移転や引き継ぎは後回しになり、ますます特定の人に業務が集中する悪循環に陥ります。

2つ目の原因は、マニュアル整備の後回しです。
小規模な組織や人手不足の職場では、「マニュアルを作る時間がない」「まずは目の前の仕事を回すことが優先」と判断されやすくなります。

もちろん、日々の業務を止めずに進めることは重要です。
しかし、手順書や引き継ぎ資料を作らないまま業務を続けると、知識は担当者の頭の中に残り続けます。新しく入った社員は、実際の作業を見ながら覚えるしかなくなり、教える側の説明にもばらつきが出やすくなります。

たとえば、同じ請求処理でも、担当者によって確認する資料、入力する順番、ミスを防ぐチェック方法が異なる場合があります。
それらがマニュアル化されていないと、業務の標準が分からず、引き継ぎのたびに品質が変わってしまいます。

また、口頭での説明だけに頼っていると、教えた内容が記録として残りません。
そのため、同じ質問が何度も発生したり、担当者が変わるたびに一から説明し直したりする必要が出てきます。これが、属人化をさらに深める要因になります。

3つ目の原因は、組織の成長スピードに、業務標準化や教育体制の整備が追いつかないことです。
特に、事業が急成長している中小企業では、顧客対応や受注処理、採用、現場対応などの業務量が急激に増える一方で、業務の整理やマニュアル化が後回しになりやすくなります。

最初は少人数で回せていた業務も、人数が増えると同じやり方では対応しきれなくなります。
しかし、業務フローや判断基準が整理されていないまま人を増やすと、新入社員は「誰に聞けばよいのか」「どのやり方が正しいのか」が分からなくなります。

その結果、「まずは見て覚えて」「分からなければ〇〇さんに聞いて」という教育方法が常態化します。
一見すると現場に馴染みやすい方法に見えますが、教える人によって内容が変わったり、重要な注意点が抜けたりするリスクがあります。

また、業務のやり方が人ごとに分かれていくと、後から標準化しようとしても、どの方法を正とするべきか判断しにくくなります。
つまり、成長期に業務の見える化やマニュアル整備を後回しにすると、組織が大きくなるほど属人化の解消が難しくなるのです。

属人化は、ある日突然発生するものではありません。
業務の偏り、マニュアル整備の遅れ、組織成長に伴う教育不足が少しずつ積み重なって起こります。

そのため、属人化を防ぐには、まず業務の流れや担当者、判断基準を見える化することが重要です。
すべての業務を一度に標準化する必要はありません。まずは「その人がいないと止まる業務」「新人が毎回つまずく業務」「確認や判断に時間がかかる業務」から優先的に整理していくことが効果的です。

属人化を完全になくすのではなく、業務継続リスクにつながる部分を見える化し、必要な手順や判断基準を共有できる状態にすることが、組織の安定した成長につながります。

中小企業ほど属人化リスクが高い理由

2026年3月に帝国データバンクが発表した「企業の経営課題に関するアンケート(2026年)」では、経営課題として「業務の標準化」を挙げた企業が58.3%にのぼりました。

業務の標準化が経営課題として上位に挙がっている背景には、人手不足や人材育成の難しさに加え、特定の担当者に業務知識が集中する「属人化」のリスクがあります。特に従業員数十名規模の中小企業では、1人のキーマンの退職や休職が、業務停滞に直結する可能性があります。

マニュアルや業務手順が整備されていない状態では、知識の共有は人に依存しやすくなります。そのため、業務の標準化やマニュアル整備は、属人化を防ぐための重要な取り組みといえます。

出典元:帝国データバンク「企業の経営課題に関するアンケート(2026年)」
参考URL:https://www.tdb.co.jp/report/economic/20260304-management-issues/

属人化が引き起こした廃業・業務停止の事例

属人化廃業リスクは、決して他人事ではありません。以下に、実際に起きた業務停止・廃業に近い事態の事例を紹介します。

事例1:創業者の突然の入院で受注業務が停止した製造業(従業員12名)

ある金属加工業の企業では、代表兼技術責任者が急病で入院。受発注管理・取引先との価格交渉・品質チェックのすべてを一人で担っていたため、3週間の入院期間中に受注が全停止しました。「価格表はあの人の頭の中にしかない」という状況で、担当者不在の取引先への対応に追われ、案件を複数失うことになりました。

事例2:ベテラン営業の退職で顧客関係が消失したサービス業(従業員38名)

ある人材サービス企業では、入社20年超のベテラン営業担当が退職。顧客との商談経緯、稟議の通し方のコツ、各社担当者の「好み」といった情報がすべてその人物の記憶の中にのみ存在していました。引き継ぎ資料は「担当企業名と連絡先のリスト」のみで、後任担当者は実質ゼロからの関係構築を余儀なくされ、主要顧客の取引額が半年で40%減少しました。

事例3:創業者引退で廃業を選択した地方小売業(従業員8名)

ある地方の小売店では、70代の創業者が引退を検討した際、「自分しか知らないことが多すぎて、引き継げる人がいない」という理由から廃業を選択しました。事業自体は黒字で、後継者候補も存在していたにもかかわらず、仕入れ先との関係・商品知識・在庫管理ノウハウが文書化されていなかったため、引き継ぎが不可能と判断されたのです。

これらの事例に共通しているのは、「廃業の引き金は、業務の属人化だった」という点です。属人化廃業リスクは、外部環境ではなく、自社内部の構造問題です。だからこそ、今のうちに手を打つことができます。

「一部の属人化は推奨する」正しい属人化解消の考え方

「属人化を解消しなければならない」という言葉を聞くと、「すべての業務を標準化しなければならない」と受け取ってしまう方も多いです。しかし、それは正確ではありません。

「無くすべき属人化」と「残すべき属人化」の違い

無くすべき属人化とは「業務継続リスクを生む属人化」です。特定の人がいなければ業務が止まる状態、引き継ぎができない状態、組織の成長を阻害する状態——これらは解消すべき属人化です。

一方、「残すべき属人化」もあります。高度な専門性、独自の発想力、その人だからこそ生まれる顧客との信頼関係——これらは組織の競争優位の源泉であり、むしろ積極的に保護・育成すべき「強み」です。mayclassでは「一部の属人化は推奨する」という考え方を大切にしています。すべてを標準化することは、組織の個性と強みをも削いでしまうリスクがあります。

標準化すべきは「業務手順」、保護すべきは「判断軸と専門性」

実践的な考え方として、「業務手順・フロー・ルール」は標準化・文書化の対象とし、「判断軸・ノウハウ・専門的技能」については個人の強みとして保護するアプローチが有効です。

たとえば、営業業務であれば「商談の進め方・見積書の作成手順・契約後のフォロー手順」は標準化できます。一方で「顧客の本音を引き出すコミュニケーションスタイル」や「複雑な商談を前進させる独自の提案力」は、その営業担当者の強みとして積極的に育てるべきです。

属人化廃業リスクを減らすための4つの具体策

では、属人化廃業リスクを実際に低減するためには何をすればよいのでしょうか。以下に、中小企業でも実践できる4つの具体策を解説します。

1. 業務の棚卸しと「リスクマッピング」

まず、自社の業務を一覧化し、「この業務は誰しか知らないか」「担当者が突然不在になったらどうなるか」をリスクの観点からマッピングします。特定の人物に依存している業務が多いほど、廃業リスクは高まります。

評価軸は「業務重要度(止まったときの影響大きさ)」と「代替可能性(その人以外が対応できるか)」の2軸です。重要度が高く代替可能性が低い業務は、優先的にマニュアル化・引き継ぎ資料化すべき対象です。

2. 「読まれるマニュアル」の作成

マニュアルは「作ること」が目的ではありません。「現場で実際に使われること」が目的です。作っても使われないマニュアルは、業務停止リスクの解消にはほとんど貢献しません。

読まれるマニュアルを作るには、「現場の人間が書く」「現場で読む状況を想定したフォーマット」「定期的な更新の仕組み」の3つが不可欠です。特に、ベテランの頭の中にある暗黙知を正確に文書化するためには、インタビュー・観察・実地確認という「引き出すプロセス」が重要です。

3. 複数担当制・ジョブシェアリングの導入

業務を1人に集中させない組織設計も有効です。主担当・副担当を設け、副担当が定期的に業務を実施することで、知識の共有と属人化の防止を同時に実現できます。月1回でも副担当が業務を実施する習慣があれば、マニュアルを読むだけでは得られない実践的な知識が育まれます。

4. 引き継ぎを前提とした業務設計

新しい業務を始める際、「将来誰かに引き継ぐこと」を前提に設計する習慣を組織に根付かせることも効果的です。「この業務を引き継ぐために必要な資料は何か」「どんな知識があれば代替できるか」を業務開始時点から考えておくと、事後的な属人化解消よりもはるかに低コストで対応できます。

属人化解消に成功した中小企業の事例

属人化解消は「難しいこと」と思われがちですが、正しい手順と支援のもとで取り組めば、中小企業でも十分に実現できます。mayclassが支援した事例の一部を紹介します。

不動産会社(56名):新人営業の立ち上がり期間を70%短縮

ある不動産会社では、営業ノウハウの属人化が新人教育の大きな壁になっていました。トップ営業担当の商談スキルや顧客対応のノウハウをmayclassのヒアリングプロセスで文書化し、営業マニュアルとして整備。その結果、新人が独り立ちするまでの期間を70%短縮することができました。属人化解消が採用コスト・教育コストの削減にも直結した事例です。

フィットネスチェーン(800店舗):教育コストを半減

全国800店舗を展開するフィットネスチェーンでは、店舗ごとに「教え方が違う」という問題が顕在化していました。本部の標準的な指導内容がインストラクターの個人スキルに依存していたためです。mayclassが支援したマニュアル整備により、研修の標準化・均一化が実現し、教育コストを約50%削減することができました。

属人化廃業リスクは「今」動けば防げる

本記事で解説した属人化廃業リスクと解決策のポイントを振り返っておきましょう。

中小企業における属人化廃業リスクは、実態として数多くの企業に潜んでいます。人手不足型倒産の増加、後継者難による廃業。その多くの背景に、業務の属人化という構造的な問題があります。一方で、すべての属人化を解消することが正しいわけではありません。「業務継続リスクを生む属人化」は解消し、「組織の競争力を生む専門性・判断軸」は保護・育成する。この区別が重要です。

業務の棚卸し、読まれるマニュアルの整備、複数担当制の導入、引き継ぎを前提とした業務設計、これらの取り組みは、いずれも「今すぐ始めること」が最も重要です。廃業リスクは、手を打てば確実に低減できます。後手に回る前に、まずは自社の業務の属人化状況を把握することから始めてみてください。

属人化解消・業務マニュアル整備はmayclassにご相談ください

「うちは大丈夫だろうか」

「何から手をつければいいかわからない」

そんなお悩みを抱える中小企業の経営者・管理職の方は、ぜひmayclassにご相談ください。

mayclassは、業種業態問わず数多くのマニュアル制作・業務可視化支援の実績を持ちます。プロのインタビュアーによる暗黙知の「引き出し」から、現場で実際に使われるマニュアルの「整備」まで、一気通貫でサポートします。まずは事例集をご覧いただき、具体的なイメージをつかんでみてください。

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